4月の第1週に2つのリーグの新シーズンが開幕した。この2つのリーグを比較すればクリケットが近年辿った変遷が見えてくる。
1つはインディアン・プレミアリーグ(IPL)だ。2008年に始まり、今年が10年目のシーズンになる。インド8都市を本拠地とするチームが約2か月間に渡って戦い、優勝を争う。チームのオーナーシップはすべて民間に売却されていて、チームオーナーの多くが著名な実業家や映画俳優達だ。Twenty20と呼ばれる球数制限のある試合形式を採用していて、1試合は3時間あまりで終了する。
IPLが始まった日のことを今でもはっきり覚えてる。当時大好きだったSachin Tendulkarがいるムンバイ・インディアンスを応援するとリーグ開幕の何か月も前から決めていて、開幕戦が待ちきれなかった。各国のスター選手が集まり、それぞれの選手の年棒と所属先がオークションで決まる新リーグの何もかもが当時中学生の私には新鮮だった。翌シーズン以降、IPLは選手の八百長やリーグチェアマンの更迭など多くのスキャンダルに見舞われうことになるが、リーグの人気はそれでも留まるところを知らない。
もう1つはイングランドのカウンティ・チャンピオンシップ(CC)である。100年以上の歴史を持つクリケット最古のプロリーグだ。18のクラブが1部、2部合わせて所属し、それぞれ優勝を争う。例年9月ごろまでシーズンは続く。「ファースト・クラス」と呼ばれる試合形式を採用していて、1試合は最大で4日間かかる。雨の多いイギリスの天気のせいで、引き分けで終わる試合も多い。
クリケットが特に盛んな地域にあるSomersetやYorkshireなどのクラブは平日でも数千人のファンを集めるが、多くのカウンティ・クラブが観客数の減少に頭を悩ませているのが現状だ。空席の目立つスタンドを写した写真が毎年のようにニュースサイトに投稿される。「観客は老人とその犬だけ」と揶揄する人も多い。とはいえ、カウンティ・チャンピオンシップが完全に人気を失ったとするのはおそらく間違いだ。ラジオ中継を担当するBBCの発表によると、4/7からの第1節6試合合計の視聴者数は100万人を超えたらしい。平日の朝11時にスタンドがガラガラだったとしても、試合に関心を持つ人がいないということにはならないだろう。18あるクラブの存在目的は次世代のイングランド代表を育てることだけではない。それぞれのクラブにそれぞれのアイデンティティがあり、ファンは地元で育った選手に誇りを持っている。これからも変わらずそうであってほしい。
わずか2か月のリーグ戦で高額の報酬が得られるIPLでのプレイを希望するのはイングランド選手も例外ではない。今シーズンもBen StokesやChris Woakes、Jos Butlerなど代表のレギュラーであるスター選手達が参戦している。数年前まではイングランド選手のIPL参加に否定的だったイングランドクリケット協会(ECB)も近年は選手が国際試合を欠場しないことを条件に参加を容認するようになった。
イングランド中部バーミンガムにあるEdgbastonをホームグラウンドとするWarwickshireは開幕からの3試合で2敗1分けと苦しみ、4/26現在、リーグ下位に沈んでいる。キャプテンのIan BellはオールラウンダーのChris Woakesがチームにいてくれたら心強いだろう。Woakesは現在、バーミンガムから10000キロ離れたコルカタのIPLクラブでプレイしている。5/24のイングランド―南アフリカ戦の直前までインドにいる予定(前哨戦のアイルランド戦はECBの特別許可により欠場)だ。
裏切られたと感じるWarwickshireファンの気持ちは充分に理解できる。しかし、プロ選手のキャリアは短い。Woakesにとっては当然の選択だ。WoakesはIPLでの2か月で約6000万円を手にすることになる。イングランド国内リーグのトップ選手が1年間に稼ぐ年俸のおよそ4倍の額だ。
インドの経済成長とともにインドクリケット協会(BCCI)の力は年々増す一方だ。数千億円規模に膨れ上がったワールドカップの放映権料はインドの巨大な市場に支えられている。インド人のクリケットへの熱狂を表した社会学者アシシュ・ナンディによる「クリケットはイギリスで偶然発見されたインドのスポーツ」というフレーズがナンディの意図とは全く違う意味で現実になりつつある。